jippiniusの自然科学研究

ジッピニウスの自然科学や技術関連についての備忘録です。

エアロゾルによる感染とはなにか?

エアロゾルによる感染とは、「ミクロな飛沫」に含まれるウイルスの吸入による感染である。ググると最初に出てくるのが「日本エアロゾル学会」の説明である。大きさは様々で数ナノメートル(分子やイオン)から数百μm(=数万ナノメートル)の花粉粒子までと幅が広いという(ちなみに新型コロナウイルス の直径はだいたい100nm)。日本語で「粉塵」「煤塵」などと呼ばれているものもエアロゾルの仲間だという。

今興味があるのは、唾液のエアロゾルの大きさである。直径100ナノメートルのウイルスを含む「微小な唾液の液滴」であるから、その100倍くらいの大きさだろうか?だとすると、10μm程度だから花粉の1/10程度の大きさなんだろう(調べてみると、一番細かいもので、だいたい予想通りの10μmだった)。だとすると、目には見えないはずだし、「鼻だしマスク」の場合は容易に感染してしまうのが想像できる。

この目に見えないほどの小さな唾液の液滴にどのくらいのウイルスが入っているか、おおよその見当をつけてみよう。飛沫とウイルスの半径の比は100倍なので、体積比に換算すると\(10^6\)倍、つまり飽和していると仮定すると100万個のウイルスが,花粉の1/10程度の半径を持つ液滴1滴中に含まれていることになる。この飛沫を1万個ほど吸い込んだら...もう、この先は想像したくないだろう。

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新型コロナウイルス (SARS-CoV-2)に取り憑かれ、自死モードになった細胞(つまり死に追い込まれたヒトの細胞):出典 NIAID

エアロゾルによる感染は昨年の早い段階から疑われていたが、CDCでは最初その存在を否定したり、しなかったりと意見がなかなかまとまらなかった(最終的には認めた)。しかし、流体力学シミュレーションによる研究や感染メカニズムの分析が進み(日本の場合だと、世界一高速のスーパーコンピュータ「富嶽」で行ったマスクの計算である)、今やエアロゾルによる感染は周知の事実になりつつある。ただし、その詳細はまだ知られておらず、空気感染との違いや、飛沫感染がメインでありエアロゾルは特別な場合に過ぎないのか、あるいはエアロゾルも普通のマスクで防げるのか、それとも防げないのかなど、曖昧な点もまだまだ多い。

そんな中、「喋る」ときに生成されるエアロゾルの方が、一回の咳で生成されるエアロゾルより危ないかも、という結論を示すシミュレーション結果が発表されたケンブリッジ大学の流体計算の専門家)。この論文は実に長い論文だが、素人にもわかりやすい「まとめ」があって、それによると、換気の悪い部屋で30秒喋り続ける方が、咳を一回した場合に比べ、エアロゾル感染の確率が高くなるという。咳でできるエアロゾルよりも、お喋りで生じるエアロゾルの方が、より細かいため遠くまで飛びやすいのが原因だという。

感染に必要な数のウイルスを含んだ細かいエアロゾルの「雲」は、2m離れた場所までわずか数秒で移動するというシミュレーション結果が得られ、仮に拡散して最初の感染を免れたとしても、換気の悪い部屋では1時間以上空気中に滞留し、感染のリスクが時間とともに高くなるという。

マスクをつけた場合の計算は精密には議論されていないが、彼らが発表しているシミュレーションにはマスクの効果も取り入れられており、感染のリスクが大きく下がることは示唆されている(やはり、マスクの計算は富嶽の方が上であろう)。

さて、ここで、興味深いことがひとつ浮かび上がってきた。先日調べたTwitterや新聞記事などで紹介される「感染の経験談」には、「感染対策はしっかりしていたので、どこで感染したかわからない」という感想が書かれていることが多い。先日、東京新聞で報道された東京都議の経験談もそういう内容であった。

www.tokyo-np.co.jpこの取材に応じてくれたのは、都民ファーストの会の山内都議(53)と、立憲民主党の山口都議(48)である。彼らの情報提供は、保健所の情報よりも貴重な情報で、とてもありがたく、感謝申し上げたい。

山内さんは「常にマスクを着けて会食も避けていた。感染経路に全く心当たりがない。あえて挙げれば立ち食いそば店電車内。一般的に感染場所とは考えにくく、....」と取材に答えている。これはまさに、喋りによる「エアロゾル」ではないだろうか?

列車内では最近、30秒以上のおしゃべりする人は少ないだろうから、多分立ち食いそばだろう。店主の「いらっしゃいませ」や「二百五十円になります」という説明、あるいは客同士のちょっとした短い会話などが、山内さんがお店に入る前の1時間前に発生していたとしたら、感染が起きても不思議ではない。もちろん、客や店主のマスク着用の有無、店の広さ、換気の良し悪しなど、考慮すべき点はいくつもある。しかし、感染したのは12月中旬だったということだから、おそらく換気は少し控えめだったと思う(開けっ放しにはなってないだろうから)。

山口さんも同様にコメントを残しているが気になる点もある。記事を引用すると

マスク着用など感染防止に努めていた。感染の心当たりといえば「一度だけ昼に入った定食屋」。「近くの客がマスクなしで激しくせき込んでいた。年末の疲れもあり、免疫力が落ちていたのかも」

 とある。これは隣の客の咳によって生じたエアロゾルが、数秒後に山口さんを取り囲み、その後30分近くにわたってご飯を食べ続けてしまったのであろう。換気がしてあっても、食事の時間内にウイルスを排気することができなかったのではないだろうか?

ということで、先ほどのケンブリッジ大学の研究グループが公開した「簡易シミュレーション」をやってみることにした。想定するのは、その昔よく食べに行った中目黒や祐天寺付近の狭い駅前蕎麦屋である。1畳はだいたい1.5m2程度としよう。店の中は細長い感じで、カウンターに10席ほど横並びになっているとしよう。広さは、まあ5畳程度とみなし大目に見て10m2と仮定する。12月中旬の寒い状況を考え、換気は悪いとしよう。ここに感染者が一人紛れ込んでいるとする。満席状態で、店主を含め十一人が店にいる状況にしよう。感染者はマスクをしていない。蕎麦をすすっているとする。自分も蕎麦をすすっているので、マスクを外しているものとする。食事の時間は30分とする(蕎麦屋だからもう少し短いとは思うが)。

さて、この状態でシミュレーションを行うとどうなったかというと、下のようになった。

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airborne.camによるシミュレーションの結果

感染確率は一応3.27%と出たが、このシミュレーターの設計者も注意しているように、モデルや仮定によって絶対値は大きく変わる。したがって、同じ状況でマスクをつけたり外したりして、「相対的な確率」をみて考察すべきである。

ということで、似たような部屋を想定し、そこで今度は「会議」している状況としよう。ここに感染者が一人いるとする。ただし今度は、感染者も含め、全員マスクをつけているとする。誰も飲食していない状況というわけだ。

この場合、シミュレーションの結果、感染確率0.56%となった!だいたい1/6程度にまでリスクは減少するというわけだ。逆に考えれば、マスクを外す状況というのは(たとえ自分が無言で食べていても、狭い店内で誰かが1時間以内に30秒ほど会話をしてしまっていると)感染リスクが5,6倍に跳ね上がることを示唆している。

つぎは、自分はマスクをしているが、感染者がマスクをしていない場合を考えよう。これは、迂闊な人間が参加している会議、あるいは迂闊な人が一人乗りこんでいる、空いた感じのバスに乗り合わせてしまった場合に相当するだろう。乗車時間や会議時間は同じく30分とする。すると、感染確率は1.37%となった。マスクーマスクの2.5倍のリスクであり、「蕎麦屋」のリスクの1/2.5程度である。

満員列車が面白そうなので、同様にシミュレーションをやってみよう。想定としては、自分が乗った満員列車の車両に運悪く感染者が一人いて、その友人と30秒だけ会話をしてしまった、という状況を考える。冬の締め切った車内を想定し、換気は悪い状態とする(東京の列車の場合は、停車駅が多いので換気はまあまあとしても良いだろうが、ここではあえて換気を悪くしてみる)。

山手線の場合、面積は約50平米、定員は160人だというから、この数字をそのまま利用しよう。また扉の高さは1.85mであるそうなので、天井の高さを2.5mにしよう。前書きの通り、換気は悪くしておく。この状態で、感染者が一人(つまり市中感染率0.625%に相当)紛れ込んでいたとして、この列車に自分が60分乗ってしまうものとする。

まずは、感染者も含め、全員がマスクをしている場合の感染確率は2.83%と出た。これは「蕎麦屋」よりもちょっとだけ分がいいが、同じくらい危険であることを意味している。

つぎに、感染者がマスクをしていない、という恐ろしい状況を考えてみよう。この時の結果は6.77%と、「蕎麦屋」の2倍以上のリスクとなった。当然といえば、当然であるが、満員列車に毎日毎日乗っていれば、年に何回かは、こういう日もあるだろう。

また、直接感染者と同じ車両に乗り合わせていなくても、自分が乗る60分前に、同じ車両に感染者が乗っていて、30秒ほど会話をしてしまった状況であっても同様のリスクは残ってしまうのだ。冬場のように換気が悪いとなおさらである。

ということで、東京都議の貴重な体験談をもとにして、ケンブリッジ大学のシミュレーションを行ってみたが、やはりマスクや換気の重要性を感じた次第である。感染研はいい加減「市中感染」の存在を認め、列車内や狭い蕎麦屋で感染が「エアロゾル」で起きていることを、詳細なシミュレーションとともに発表するべきである。この映像をみると、人々は(特に日本人は)容易にロックダウンに同意してくれるはずだ。(総理大臣は理研と感染研にこの計算や分析を行うようにすぐにでも命令を出すべきだろう。)