jippiniusの自然科学研究

ジッピニウスの自然科学や技術関連についての備忘録です。

ワクチンと集団免疫獲得について:イスラエルからの嫌な感じのニュース

 

イスラエルのアグレッシブなワクチン接種プログラム

以前にも取り上げたが、現在世界でもっともワクチン接種が進んでいる国がイスラエルである。1月17日のABC newsの報道では、国民の25%弱がすでにワクチン接種(多分1回目だけ)を終了したという。本日のデータを手に入れることはできなかったが、おそらく40%近くになっているはずである。この調子でいけば、新型コロナウイルス に対する集団免疫を獲得できるとされる70%まであと少しであり、イスラエル政府は2月末にもそれは実現できると見込んでいる。

そんな「希望に満ちた」イスラエルからいくつかの嫌なニュースが入ってきた。

ファイザーのワクチン:英国の賭け

ファイザーのワクチンだけでなく、現在許可が出ているワクチン全て(モデルナ、アストラゼネカ)が、「抗体を身につける」ために2回の接種が必要である。

ところが、英国はこの規約を破り、とりあえず1回だけでも可能な限り多くの国民に接種させることを優先する方針に急遽転身した。ファイザーの場合、3週間後に2回目の接種をすることになるのだが、2回目を受ける予定だった人を待たせて(ほんの一部の人たちは予定2回接種できたようだが)、1回目の人を優先することにしたのだ。

そもそもワクチンを製造した製薬会社ですら、このやり方を推奨していないのに、どうしてこんな「無茶」をやることに決めたのかというと、それはワクチン接種のペースがどうしても上がらないからである。

BBCによれば英国の接種率は1月上旬で2%程度であった。本日の記録を見ると1回目の接種が終了した人が約8%、2回目が終わった人が0.7%となっている。英国のワクチン接種が始まってから6週間が経ったので、単純計算で、1回目の接種が集団免疫に到達するまでにあと1年ほどかかることが見込まれる(これでもペースは上がってきている)。2回目の接種はというと、2週間ほど前に始まったばかりであることを考慮に入れても、完了するまでに、なんと、あと4年近く(正確には3.9年余り...)もかかる見込みである。

どうしてこんなに悠長にやっているのか!と叱り飛ばしたくなる気持ちはよくわかる。しかし、感染爆発が起きて病人の世話だけでも大変なところに、ワクチン接種もやらねばならない医者や看護師の身になって考えればわかるはずだ。医療崩壊した状況では、ワクチンどころか、通常の医療すら困難な状況なのだ。

英国で感染爆発を引き起こした原因は周知のように新型の突然変異VOC-202012/01である。これが12月の初めから爆発的な感染を引き起こし、英国のワクチン接種計画を根本から破壊してしまったのだ。仕方なく、英国は完璧にやるよりも、次善の策をとることを選んだのである(1回の接種だけでもなんとか早く打ってもらう政策)。

この政策にはひとつの「賭け」があった。それは、「規格外かもしれないが、もしかすると1回の接種でも結構な抗体が作られ、完璧とは言わないまでも、なかなかの予防効果が出てくるのではないか?」という期待である(科学的ではない、単なる希望である)。

ファイザーのワクチンは1回だけ打ってもダメ:イスラエルからの報告

英国政府の希望を打ち砕くような報告が先日イスラエルから発表された。どうやら、ファイザーのワクチンは1回目だけではさっぱり効果がないらしいのである(少なくても、接種から2週間は、打っても打たなくても感染に違いは出なかった)。

www.theguardian.com

イスラエルではすでに3割以上の国民が1回目のワクチン接種を完了している。それにも関わらず、1月18日に、1日の新規感染者としてはこれまでに最悪の1万人(!)が報告されてしまったのだ。東京が2500人/日を記録した1月上旬に、このままいけば1万人/日に間も無く到達してしまうのではないか?という恐怖を感じた方は多かったはずである。それがイスラエルでは実際に起きてしまったというわけである。(日本全体でも、まだ1日の新規感染者が1万人を超えた日はない。最大でも8000人/日以下である。)

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イスラエルの新規感染者の推移:Data source from John's Hopkins University

日本ではワクチン接種はまだ始まっていないにも関わらず、非常事態宣言を出したところ、東京での感染者は1000人/日程度まで下がってきた。つまり、ワクチンを1回打って食べ歩くよりも、ワクチン打たずに家にこもる方がよっぽど効果がある、ということらしいのだ。これは驚きの結果であり、世界中が注目している。特に、ワクチン1回政策を採用した英国は冷や汗をかいている最中である。

The guardianの記事によると、Pfizder+BioNTechのワクチンは2回でセットの設計であり、設計通りに接種を2回行うと、ワクチン接種していない人と比べて、6倍から12倍の抗体価が得られることがわかっている。1回目の接種で下地を作り、2回目で一気に抗体価を上昇させるこの方法は「スーパーチャージ」と記事では表現されている。

アロンアルファにも2つの接着剤を混ぜ合わせるタイプが存在する。1種類だけでは接着しないが、2つを混ぜると「スーパー接着」するようになる。これと同様の反応がmRNAワクチンでも起きているようなのである。

ただ、製薬会社は「1回でもまあまあの効果はあるだろう(そういう観点から研究してないのでデータはないが...)」という感じのコメントをしていた。しかし、イスラエルの「治験データ」に基づくと、製薬会社が予想したよりも効果が薄いことが示されつつあるのだという。

多くのイスラエル国民が1回目のワクチン接種を打ち終わり、2回目の接種を終えた国民も40万人に及ぶ。それにもかかわらず、最悪の感染者数が発生してしまったのは、イスラエルでも英国由来の変異株VOC-202012/01が次第に優勢になっているからである。イスラエルの専門家によれば、あと数週間でイスラエルの主要株は英国由来の突然変異に入れ替わるという。つまり、この突然変異の拡大速度は、世界最速のワクチン接種のペースを誇るイスラエルですら追いつけないようなのだ!

2月下旬にも集団免疫を獲得し、3月になれば「昔に戻れる」と胸を張っていた、イスラエル政府の自信は急速に縮んでおり、現在ウイルスとの競争に負けるかもしれないという「緊張感」に包まれているそうである....

BBCの報道:より詳細な情報

1月21日付のBBCの報道を見つけた。

www.bbc.com

イスラエルでは、1回目のワクチン接種を終えた何千人もの人が感染してしまったというが、イスラエル政府は「このニュースに動揺しないように」と呼びかけているそうだ。(まだ科学的なエビデンスが集まってないから、ということらしい。)

一方で、イスラエルの科学者が公表したデータによると、最初のワクチン接種を受けたあとでも、2週間以上は効果が出ないという結果が出ているそうである。つまり、1回目のワクチンを受けても受けなくても、2−3週間はワクチンを受けてない人と同じように感染してしまうのだという。ところが、この期間を過ぎて、ひと月近く経つと、少しずつ1回目の接種を受けただけの人でも、抗体が強まってきて、1回も接種してない人に比べ、感染率は2/3程度に減少するそうである。つまり、1回目のワクチンの役割は、体内でゆっくりと抗体を増強する素地を作ることのようである。素地が整った段階で2回目の接種をすると、「スーパーチャージ」が起き,一気に抗体や免疫が強まるようである。したがって、1回目の後にきちんと自粛し、油断して感染しないようにし、2回目を確実に接種することが重要だ。これが、このウイルスに勝つための鍵となるようである。

したがって、英国政府の政策(1回目のワクチンをとにかく優先する手法)を採用する場合、3週間程度は完全なロックダウンを実施するべきだろう(イスラエルはこれに失敗しているようで、1回目のワクチンのあと、結構出歩いてしまっているようだ)。

 イギリスからも嫌なニュースが

英国からも嫌なニュースが届いている。どうも英国由来の突然変異株VOC-202012/01は、これまでのGR,GH,GV変異体などよりも、致死率が高いらしいのである。

mainichi.jp

この変異株は絶対に蔓延させてはならない。

イスラエルの経験から我々が学んだのは、「1回のワクチンより、ロックダウンの方が今はずっと有効」ということである。日本は、ワクチンが遅れていることを恥じる必要はない。家にこもる方がずっと科学的に「強い武器」であることが判明し、他の国や文化の人々ができない「自粛能力」がずば抜けて高いのだ。(イスラエルは、ロックダウンをかけているが、人々は言うことを聞かずにちょくちょく礼拝に出かけて、多くの人と挨拶を交わし、食事を共にしているそうである.....)この「武器」を使って、なんとか感染爆発を食い止めることは我々ならできるはずだ。