jippiniusの自然科学研究

ジッピニウスの自然科学や技術関連についての備忘録です。

長野県で初めての院内感染

先日ここで議論した「長野県で初めての死者」に関して、動きがあったので記録しておきたい。

昨日、長野県は7人の新規感染者を報告したが、そのうちの二人が長野県初の院内感染だったという。院内感染が発生した病院名が会見で公表され、我輩は絶句したのである。それは、あの80代女性(東京から軽井沢に避暑に来ていて感染した)が、PCR検査をやる前に入院してしまった軽井沢病院だったのだ(案の定)。「あの80代女性」と書いたのは、この女性が長野県最初の死者ではないかと推測しているからである。

高齢女性とはいえ、「PCR検査の結果が出る前に、肺炎の症状があるというだけで慌てて入院させてしまったのは失敗ではないか」という内容を8月22日のブログで書いている。そこで、院内クラスター発生の可能性を指摘し、憂慮もしていたのである。

このとき、長野県、および関連する保健所に連絡をとり、「院内クラスターの恐れがあるから、病院の名前を公表するか、公表できなないならば、病院内にいたスタッフや患者全員のPCR検査を至急行うべきだ」と進言した人が居たことを、ネットやその他の情報源から我輩は掴んでいる。この的確な進言は残念ながら無視されてしまったようである。

また、このときの情報源から、「迂闊にも新型コロナウイルスの患者を一般病棟に入院させてしまったのは軽井沢病院ではないか」という情報が見つかっていた(我輩のブログには「噂では地元の名前を冠した基幹病院だそうだが詳細は不明」と書いてある)。

結局、以上のようにして情報は漏れていたのであるから、速やかに情報を公開し、院内感染の連鎖を最小限にするべく、まずは病院を閉鎖し、患者や医療スタッフのの隔離、そしてPCR検査を、長野県と保健所は速やかに行うべきであった。

昨日の発表では、「最初のPCR検査では陰性が出たのでしばらく放っておいたが、その後症状が出たので再検査し、陽性と判明」と説明していた。8月21日の長野県の報告では、この80代女性の「濃厚接触者は家族2名」と書いてある。つまり、この家族の別荘に住んでいたのは3人家族だったということになる。この翌日、そのうちの一人である60代女性が感染したことが公表され、そこでは「濃厚接触者1名」に変わっている。残り家族一人は、80代女性の「夫」だと思い込んだ我輩は、この「高齢の方」もきっと感染して苦しんでいるのではないかと決めつけてしまった。

しかし、何日経っても、最後の1名の感染有無については報告されなかった。そこで、我輩は昨日のブログで「この方の夫と思われる方は感染しなかった」と書いたのである。

この「夫と思われる方」が感染していることがわかったのは、昨日の記者会見であった。県によれば、なぜ家族3人のうち最後の一人の感染が報告されなかったのかというと、最後の方は東京に帰京してから陽性が判明したので「東京都の感染者としてカウントされている」からだったそうである。長野県は、この事実を長い間隠していたことになる。この不穏な動きに何か裏を感じる人はいるはずである。結局、東京から軽井沢の別荘へ「避暑」に来たこの家族は「全滅」していたのである。

昨日のブログでは、「夫だけ別行動か?」といった推測をしていたが、そのようなことではなかったようだ。やはり、一緒に住んでいると皆感染してしまうのだ、と思い知らされた。長野県はこの情報をもっと早く公開すべきだった。

昨日発表された内容は、信濃毎日新聞の図によくまとめられている(下図)。

 

https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/news-image/IP200902TAN000199000.jpg

 

この会見のなかで、東京から軽井沢に来ていた80代女性の行動歴に「申告漏れがあった」という説明があった(下のビデオの7:50あたり)。記者の方々はこの説明について詳細を問い正すのだが、県の担当者はのらりくらりと受け流すのである。

 

www.youtube.com

県の発表をよく聞くと、「軽井沢病院の医療スタッフと入院患者34人のPCR検査は全員陰性だったが、濃厚接触者2人(家族)に関しては両者ともに陽性だった」という説明がある(ビデオの8:00以降)。その感染者とは「166番の(東京に住所があり、軽井沢に別荘をもつ)60代女性」、および(すでの上述したが)「東京に戻ってから陽性が判明し、東京の感染者としてカウントされた方」である。後者が感染していたことは、今回の会見で初めてわかったのである。

最初、信濃毎日新聞の記者は、「268番の患者(東御在住で軽井沢病院に8/18-9/1の期間に軽井沢病院入院していた)は同じ病棟だが別室にいた、ということだが、飛沫感染するということであれば、158の東京から軽井沢の別荘に来ていた80代女性が病院内をうろうろしていて感染を広げたのではないか、その行動歴について虚偽があったのでは?」と聞いた。担当者「違います」と答えた。

これは当然だろう。というのは、この80代女性は肺炎で入院している方である。保健所が陽性を確認し、感染症指定医療機関に転院したときにはすでに酸素吸入するほどの「中等症」患者だった(下図)。入院中に病院内を歩き回って、他の患者と話したり、会食することはまずあり得ない。そもそも、東京の方が、東御市の60代男性と会話などのコミュニケーションをとるというのは、非常にあり得ない話である。

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NBSの放送(8月21日)を基にしたfnn.jpの動画より上田市の80代男性は

病状がすぐに回復し、8月30日の段階ですでに退院している。)

しかし、この記者の質問は非常に重要な点を突いている。つまり、歩き回らず、会話せず、会食もせず、酸素マスクをつけ、肺炎の病状に苦しみ、ベッドに伏したままの80代女性が、どうやって同室の患者のみならず、別室の患者にまで感染を広げることができるのか?という根本的な疑問である。(県の担当者は答えをはぐらかした。)

実は、この疑問には2つの答えがある。一つは、医療関係者がすでに感染しているという解釈だ。80代女性患者を世話した看護婦、診察をした医師、検査を担当した技官、料金の支払いや保険証の確認をした保健事務員など、どこかで誰かに感染し、医療スタッフの中に院内感染が広がっていれば、別室の患者に感染が広がることはあり得る。今の所、濃厚接触をした可能性のある医療スタッフ34人全員がPCR検査で陰性だということだが、全員陰性という結果は「偽陰性」の可能が十分考えられるので、その解釈は注意しなくてはならない(この議論は、Jリーグの選手が全員陰性だった、という事案で考察した)。

もし広範囲に院内感染が発生していないとするならば、エアロゾル感染を考える必要が出てくる。これが2つ目の答えである。飛沫感染だけに注意すれば良いので、マスクをし、大声で話さなければ感染はない、という説明をする人をよく見かける。3月か4月ごろならこの説明だけでよかっただろうが、いまやエアロゾル感染を認めないと説明がつかない事例が世界中でたくさん見つかっている。オックスフォード大学の学術雑誌や、世界的に著名な科学雑誌ネイチャーなどでも、「空気感染」の可能性を考える時が来ているとか、空気感染の証拠が溜まってきた、などという論文や文章が複数発表されている。

academic.oup.com

www.nature.com

このブログでも取り上げたが、日本でも、航空機での感染が報告され、後ろに座る人が、前に座る人からうつされた事例が見つかった。見知らぬ二人同士で、会話も会食もなかったわけで、どう考えても飛沫感染はあり得ない。

一晩、感染者と同じ部屋で寝泊まりし、おそらく病院食も同室でしたはずの人間たちが「濃厚接触者」じゃないわけがないがないのだが、長野県の担当者は8月21日の発表において、「濃厚接触者は家族の2人だけ」という回答を頑なに繰り返した。「PCR検査もせずに入院したのはまちがいだったのではないか」とか「入院した時に同室者はいたのか」という質問で食い下がる新聞記者を「詳細は調査中」とし煙に巻いた(同室者がいるかどうかなんてことは、真っ先に調べるはずで調査中の訳がない。「保健所用語」でいうところの「同室者はいました」ということだと、これからは解釈することにする)。

結局、院内感染は起き、病院名は公開され、予想通り、それは軽井沢病院だったという結末になったのである。とても残念である。

今回の軽井沢病院の院内感染により、東京からの旅行者が、地方の医療資源を食いつぶす、という不安はまさに現実のものになってしまった。これは、gotoキャンペーンがどうのこうの、というよりは、人の往来を止めないこと自体の問題であろう。

軽井沢の感染事案において、ひとつ新たな謎が出てきた。それは、「(80代女性に関して)行動歴の申告に漏れがあった」という県の説明である。記者は少しまとはずれな方向で質問していた訳だが、県の担当者は「感染が流行している東京(首都圏といい直したが)から8月上旬に軽井沢の別荘に来ていたわけで、そのあたりの申告漏れではないか」と付け足した(ビデオの19:00周辺)。つまり、80代女性が「東京から来た」といわず、嘘をついて軽井沢病院に入院したのではないか、ということを示唆したわけだ。

ビデオの22:00のあたりでは、「新型コロナウイルスの診察は難しいところもあります(ので、入院の判断をしてしまった軽井沢病院にそれほど落ち度はない)」ということを、わざわざ付け足している。どうも、この県の担当者は、軽井沢病院のことをかばっているような感じを受けたのだが、どうであろうか?もし、この印象が多くの方と共有できるのであれば、なぜ県の担当者は軽井沢病院をかばうようなことをしなくてはならないのだろうか?不思議である。