jippiniusの自然科学研究

ジッピニウスの自然科学や技術関連についての備忘録です。

飛行機の機内感染の衝撃:科学的にもっともらしく聞こえる非科学

 

航空機の機内で乗客同士の感染が発生

 

航空機の機内において、乗客同士が新型コロナウイルス に感染した事例が発表された。

 

news.tv-asahi.co.jp

この事例は、観光ビジネスを推進する政府や関係者にとって、大きな衝撃であったに違いあるまい。

破綻した説明:「航空機内は密でない」説

これまでにも、Gotoキャンペーンを強硬に推し進める政府や、キャンペーンに深く関係する航空業界や旅行業界などは、こぞって飛行機機内における感染リスクの低さを強調してきた。ちょっとググるだけでも、Gotoキャンペーン用に書かれた文書がたくさん出てくる。

 

president.jp

serai.jp

 

www.aviationwire.jp

航空機のような「密閉空間」がいかに「密閉ではないか」という、「逆説的な内容」が、「一見して科学的に」説明されている。が、今回、航空機内で乗客同士が感染した、という実例によって、これらの説明は説得力が薄まったといえる。

これまでの説明は、「飛行機の換気性能は高く、数分で空気が入れ替わるので、密閉といえども密閉ではない」という逆説論法であった。バス業界でも同じような説明が行われ、「十分な感染対策をしている」と主張されてきた。

先ほどの記事でも考察したように、長時間平均としての「ウイルス濃度0」と、短時間スケールにおける「ウイルス集合領域」の存在は、矛盾せず並存できる。感染の有無は必ずしも、長時間平均だけでは決まらないことが、今回の感染事例によって示されたといえよう。

 

これまでに「したり顔」で説明されてきた「十分な感染対策」のほとんどが、今回の感染事例によって否定されたことは興味深い(もちろん、すでに感染した二人が偶然、席の前後に座り合わせたという、浜辺の砂の中から火星から来た隕石の粒を見つけ出すよう事象の確率を0と断定するわけではないし、高速走行する新幹線がたとえ脱線しても死なないようにするためには、乗車の際は必ず頭にタオルを巻くようにすると一定の効果がある、という主張を頭ごなしに否定するわけでもない)。

上で引用したプレジデントという雑誌に書かれていた国際航空運送協会(IATA)の分析はとくに興味深い:

IATAはその理由として、①乗客は前を向いて座っていること、②対面の接触は限定的であること、③座席シートが後方から前方への感染をバリアする役割があること、④天井から床への空気の流れは機内前後への感染の可能性を減らすこと、⑤機内空調で高効率粒子状(HEPA)フィルターを使用している、などを挙げている。

今回の機内感染の事例では、(1)乗客は前を向いて座っていた、(2)対面接触はなく、会話もなかった、(3)座席シートが後方から前方へ(あるいはその逆)の感染をバリアできなかった、(4)天井から床への空気循環が感染を止められなかった、(5)

フィルターがあってもなくても感染は発生した、ということであるから、ことごとく、この分析が却下されていることがわかる。

破綻した説明(2):遮蔽物(衝立)の効果/無効果

上でも書いたが、今回の航空機内における乗客間の感染で判明したもう一つのことは、遮蔽のよる飛沫感染対策は不十分ということである。というのは、感染した乗客の座席関係は「前後」であったというのだ。当然、背もたれによって、前の座席と後ろの座席は「区切られている」。両者には会話はなかったというし、当然、対面で座っていたわけでもない。

政府お得意の「十分な感染対策」が行われた結果、感染したことになる。

スーパーコンピューター「冨嶽」では、この「パーティション(衝立)」の効果について詳細なシミュレーションを行なっていたが、航空機内のシートが果たす「遮蔽」としての役割がどれほどのものか分析する計算結果は発表していない。前の計算でちょっと条件を変えれば、座席の前後における流体計算もすぐにできるはずにも関わらず、である。これに関しては、先のブログ記事にも記述したから、ここでは繰り返しの議論を避けたい。

旅館や駅の窓口、銀行や郵便局など、旅行に行く時には、いろいろな場面で対面の対応が必要になる。政府は「透明な遮蔽物(衝立)を置けば感染対策は十分」だとしているが、飛行機の座席シートですらダメだったのに、果たして大丈夫なんだろうか、という疑問を持つ方は多いだろう。ちなみに、”万全な感染対策”の「切り札」として登場し、その効果の無さで有名になった東京都推奨の「虹ステッカーキャンペーン」の条件文にも、衝立のことは出てくる。

理研のシミュレーションをみれば、ある程度の大きさがあれば一定の効果(新幹線の脱線事故に備えて頭に巻くタオル?)はあるようである。が、小さい場合は明らかにだめらしい。だとすると、いわゆるフェースガードはどうなのだろうか?という素朴な疑問も出てくるだろう(たぶん、頭に巻いたタオルと同じ感じなのであろう)。

www.youtube.com

[追記] 感染は、前の席の人から後ろの席の人に広がったという説明が今朝の報道であった....遮蔽に関する議論は今回の機内感染では適当では無さそうだが、そもそも前から後ろに感染が広まるということ自体が前代未聞である。誰も予想できなかった感染経路である。一方で、NHKの朝のテレビ番組の関係者3人が感染した、という報道を先ほどやっていた。衝立(透明な仕切り板)で厳重に仕切っていたというが、感染が止められなかったという。また、別の番組では、東京の(小中学生向けの)塾でクラスター感染が発生したという報道があった。同じように、学生の間は透明な衝立で仕切られていた上に、マスクも着用していたという。やはり、衝立とか、仕切りとかはあまり感染防止の重要なファクターとはなり得ないことがわかる。それぞれの報道では、「換気」の問題を指摘していたが、玉川氏は「最高性能の飛行機の換気システムでだめなのに、窓を開けたくらいでそれほど大きな効果は期待できないのでは?」と疑問を呈していた。同感である。

破綻した説明(3):経路は飛沫感染だけではないこと

もっとおそろしい点は、「飛沫感染だけではなさそう」という点である。今回、飛行機の中で感染した2人は、見知らぬ他人同士であり、会話はなかったのである。飛沫感染ではないことは明らかである。

政府の「十分な感染対策」の中には、「大声で話さず、マスクをして飛沫を飛ばさないこと」というのがある。その観点からすると、喋らないという対策は「究極の感染対策」のはずである。ということは、飛行機のような「換気が行き届いた場所」で、「飛沫がまったく存在しない」状況においても、感染してしまうのである。最初に思いつくのが、「エアロゾル感染」である。

報道によれば、感染が発生した飛行機は、新千歳から成田までの1時間40分のフライトだったそうである。とすれば、2時間足らずの間、無言で、最高性能の換気設備が整った場所に、感染者と居合わせるだけで、感染してしまうということになる。

エアロゾル感染が発生したとなると、「旅行自体は問題がない」とする政府諮問機関の長の説明は破綻したことになる。乗り物に乗り合わせただけでリスクが生じるのである。ただ、その時間に関しては注意が必要だろう。今回の事例からわかるのは、少なくとも100分以上同席すると、会話がなくても、遮蔽物があっても、対面でなくても、換気が最高の状態でも、(エアロゾル)感染してしまうということだ。

[追記:NHKのホームページにWHOの報告が紹介されていた:「空気感染の可能性が否定できない」とのこと。]

 

これが60分ならどうなんだろう?とか、10分ならどうなんだろう?とかいう疑問は次々に湧いてくる。これに応えるには、感染事例を詳細に分析し、行動履歴をつぶさに追うことである。Gotoキャンペーンに命を捧げる「ボランティア」の行動を追跡調査するのが最適だと思われる。

しかし、政府はGotoキャンペーンで発生した感染事例に関しては一切のデータ公表をおこなわない、と明言したのである!太平洋戦争の「情報隠蔽」が脳裏に浮かぶ。政府の失策を隠すことは、2発の原子爆弾の破裂という結果で跳ね返ってくることを、私たちは教訓として知っている。このままでは類似の悲劇が発生しかねない。

なんとかして「乗り物感染」におけるエアロゾル感染係数を割り出す必要がある。隠密を走らせ情報収集にあたりたいところである(玉川氏や星氏にお願いしたい)。

ちなみに、マスクをしていればソーシャルディスタンスは不要、という妄言は、読売新聞が報じた金沢大学の学生間における感染によって、誤りであることが報告されている。

www.yomiuri.co.jp

”十分な感染対策”とは何か

ダースベーダーだろう。

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