jippiniusの自然科学研究

ジッピニウスの自然科学や技術関連についての備忘録です。

航空機内の空気循環と福島原発放射性汚染水の拡散/希釈との論点の類似

「航空機内は密閉ではない」という主張

「3密」を避けよ、という政府や東京都の大号令がかかっている割には、新幹線や航空機を使った移動を避けよ、という大号令はかからない。「科学的に」は辻褄の合わない変な話であるが、これを言ってしまうと、政府オススメの「観光旅行キャンペーン」を中止することになってしまうから、彼らの「論理」からすると「まずい」わけである。

都合のいいところだけを切り取るのが、政治、経済の「論理」なのだろうか?そうだとすると、本当の「論理」(科学的な論理)によるしっぺ返しがやってくるはずである。人類の長い歴史がそれを証明している。

とはいえ、航空機内が「密でない」とする「根拠」は政府や関係業界から一応与えられているからそれをまずは確認しておこう(もちろん、最後にそれをrefuteするわけだが)。「密なのに密でない」ことの「科学的な根拠」とは、主に空気循環の速さである。

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ものの数分で、ウイルスを含む空気があったとしても、「綺麗な」空気に入れ替わってしまうので「安全」なのだという。

汚染水の「拡散、希釈」の問題との類似

同じような「科学的説明」は、福島原発から太平洋に垂れ流される放射性汚染水の問題でも見られた。政府が「大きな問題にならない」と説明したその理由は「拡散して希釈されるから(直ちに影響はない)」であった。官僚たちは学校で理科をよく勉強し、よく覚えていると感心したのだが、中途半端な理解にもとづく「自信」は害悪以外の何物でもないことを示す典型例だと思ったのも事実である。

学校で教える理科は、古典的な熱力学の理論に基づく「平衡状態」を仮定している。この仮定に基づく理論だけが展開される、というのが要注意点である。熱力学の第二法則によれば「エントロピーは増大する方向にしか熱力学的過程は進まない」とあるから、放射性物質が高濃度のまま海底に沈殿し続けるとは思えなかったはずである。ところが、この理論には「平衡状態」に到達するまでのプロセスが考慮されていないし、平衡状態にたどり着くまでにどのくらい時間がかかるかは書いてないのである。

これは統計力学におけるエルゴード問題と呼ばれる難問と関係がある。どのくらいかかるかはしらないが相当な長時間を見込んでやれば、かならず熱力学系は平衡状態に到達するはずだ、というのが熱力学の大きな「仮定」であり、これは多くの場合に確からしいのだが、まだ厳密な証明は与えられてないはずだ。この大問題に取り組んでいるのが、現代の理論物理学者たちである。彼らは、「非平衡の熱力学」という分野を立ち上げ、日々研究に励んでいるのだが、なかなか答えは出てこない。

原発から垂れ流される放射性汚染水が、いずれ太平洋全域に拡散するのは確からしい。しかし、そこに至るまでにどのくらい時間がかかるかはわからないのである。平衡に達するまでの非平衡過程においては、汚染水が高濃度に集約する状況が発生しても不思議ではない。そもそも、コンピュータシミュレーションをすると、一時的に集約するような状況が発生することはすでによく知られている。(これは、宇宙空間を漂う、星間ガスが、所々で高濃度に集約し、恒星の「種」となる理論と関連している。)

一般の人でも、この「高濃度領域の一時的な滞留」を実験(シミュレート)することは可能だ。ガラスコップに、赤絵具の原液を一滴垂らして、その拡散の様子を定期的に撮影すればよいのだ。短時間で実験(シミュレーション)を終わらせるには、拡散速度が早くなるように、温水をコップに入れるとよい。撮影間隔は30秒から60秒程度でよいだろう。1時間ほど頑張って撮影を続けても、完全に拡散する状態には到達しない(ことが多い)。コップの底に、濃い領域が部分的に形成されることがわかるだろう。

ところが、この状態のまま静かにコップを置いたまま一晩寝てみる。朝起きて再度観測してみると濃密な領域は見事に消え去り、驚きの声を上げるはずである。コップの水全体に絵の具が広がり、水全体が薄い赤色に着色されている(つまり拡散されている)はずだ。

多体シミュレーション(流体シミュレーション)の解釈

このように、初期条件として高濃度の「滴」から始まった「流体」が熱力学的な平衡状態に達するまでの間に「密度の揺らぎ」はかなり高い確率で存在する。

実は、非平衡な過程がどのように経過していくかという問題は、多体シミュレーションのもっとも難しいところで、いまだに完全な理解には到達していないが、「一様に拡散」するには結構時間がかかり、密度の揺らぎは結構頻繁に発生する。

流体計算とは多体シミュレーションのようなものであるから、ウイルスをたくさん(高濃度で)吐き出す人物がいれば、濃い絵具の滴のような「ウイルス集合体」が空気の流れに乗って機内を漂っていく最中に、密度が高い領域としてどこかに滞留することは、むしろ自然である。

「滞留」の定義を、平衡状態が生じるまでじっくり待つような「長時間平均」で行えば「ウイルスは消滅」している、という答えになるだろうが、それよりもずっと短い時間スケールで計算を見直せば、瞬間的に滞留する領域は必ず発生しているだろう。それを前の席の人が「パクッ」と飲み込んでしまえば何が起きても不思議ではない。

数理的に言えば、濃密度の小領域が持続する時間と、感染に要する時間とを比較し、前者が後者を上回るような状況が発生すると「感染」が起きることになる。例えば、ウイルスの高濃度領域が0.1秒だけしか持続しないとしても、感染に要する時間が0.01秒であれば、感染は発生するのである(形成された瞬間に吸い込んでしまえば、感染に要する時間はたっぷりあることなる)。もちろん、これはあくまで例であり、正確な時間スケールの見積もりに関しては専門家にお願いしたいところである。

スーパーコンピューター「冨嶽」を使った感染シミュレーション

そういえば、現在世界最高速のスーパーコンピュータ「冨嶽」を用いた、飛沫感染に関する流体シミュレーションの結果を理研のグループがちょっと前に発表していた。この結果を受けて、「科学的に感染対策を行なっていく」と政府は明言した。だが、箸にも棒にもかからないような「オフィス内で衝立(遮蔽板)を挟んで対面する二人」の流体シミュレーションだとか、学校の教室内の流体シミュレーションだとか、政府の主張する対策や施策の正当性をなぞるような結果ばかりを発表してきた。

 

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「世界最高」の計算機を用いる「世界最高」の科学者なんだろうから、航空機内の対流についての流体シミュレーションを実行することなぞ、もののの1日(ほんとは1時間くらい?)もあれば十分なはずだ。にも関わらず、なかなか計算結果が出てこないのは、「今がお盆だから」という理由だけではあるまい。

政府の息がかかった研究者の沈黙と大声

政府に都合の悪い計算は絶対に出てこないはずである(内情は、たぶん、すでに計算済みだと思うが、首がかかっているし、研究予算の削減などの恐怖もあるから、結果を公表できないのだろう)。

 国立大学や政府系の研究機関の研究者が、文部科学省厚生労働省などから圧力を受けている実態は有名である。京都大学の山中先生ですら、春先にiPS細胞の研究費を大幅減額されそうになったのは記憶に新しい。原発事故のとき、声を大にして危険を訴えることができたのは、京都大学で冷や飯を食わされていた小出先生や、東大の児玉先生など、限られた人々だけであった(児玉先生は今回の新型コロナウイルス の問題でもご活躍である)。

 

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一方で、政府に都合が良い研究結果を発表する、いわゆる「御用学者」たちは実に元気である。「日本人はすでに集団免疫を獲得しているため、欧米のような感染爆発は発生しない。もうマスクなしで街を出歩いても大丈夫だ」と声高に主張する医学系の研究者は複数いるし、「旅行自体は感染蔓延に寄与しない」とか、「PCR検査を無症状感染者に拡大するのはよくない」と主張する政府分科会のメンバーすら存在する(「御用学者」の中にK値の考案者をいれるかどうかは個々の判断に任せよう)。