jippiniusの自然科学研究

ジッピニウスの自然科学や技術関連についての備忘録です。

死亡者数と感染者数のピークのズレ

感染者数のピークと、死亡者数のピークがずれることはよく知られている。(当然、重症者数のピークは、上の2つのピークの間にくるはずである。)

NHKのデータを見ても、それは確認できる。ただし、公開されているデータは「全国」のデータのみである(東京のものに関しては死者数のデータがない)。このデータによると、感染者数のピーク(と思われる場所)は4月16日である。この日の新規感染者数は(全国で)576人である。新規感染者数の最高値が発生したのは4月11日で、720人であった。

死亡者数のピークは5月2日である(この日の、1日当たりの死亡者数は31人で、これが最高値である先ほどの記事で「5月28日に東京都だけで30人の死者が発生したという記録があるが、なにかがおかしい」ということを書いたが、日本全体で31人が最高値だとすると、やはりなにかがおかしいのだ)。予想通り、やはり感染者のピークと、死亡者のピークはずれている。

感染者数のピークから、死亡者数のピークまでの期間は、おおよそ2週間から3週間ということになる。 

これは、感染者が死亡するまでの入院日数に対応しているのではないだろうか?

感染してから死亡するまでの「入院日数」

上の仮説を確かめるために、5月27日(緊急事態宣言を解除した直後に相当)から、8月12日までの東京都における死亡者記録を利用して、「入院日数」を算出してみたい。

まずは、診断日から死亡日までどのくらいの時間が経過したかを週を単位にしたヒストグラムを作ってみた。大雑把な推計であることに注意してもらいたい(たとえば、10日の場合はには1週間とした)。

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「入院時間」のヒストグラム:縦軸(人数)、横軸(週)

急激に病状が悪化する方がたくさんいると同時に、2−4週間の間生死の間を彷徨う方も結構多いことがわかる。「入院期間」の期待値を(このヒストグラムを利用して)計算すると、3.65週ということになった。約25日である

2つのピークの位置の差、つまり点と点の間の「距離」を測定すると2-3週間となるが、感染と死亡の流行期間という、領域と領域の間の「平均距離」を定義すると、一月弱程度の間が開くことがわかった。

現在の状況の解釈

8月13日の25日前というと、7月19日頃である。Gotoキャンペーンが始まる直前である。その頃の感染状況はというと、初めて新規感染者数が300人に肉薄した頃である。

もう少し詳細に記述すると、7月2日に、5月以来(2ヶ月ぶり)となる100人台の新規感染者が記録される(107人)。7月4日に131人の新規感染者が出て、若干の緊張感が出てきたが、その後は減少し、7月8日には75人まで減少した。ところが、7月9日に、4月に記録した最高値206人を大きく超える224人が発生、翌10日にはその最高値はさらに塗り替える243人が記録された。国民に大きな緊張感が走った。ところが、その後は減少傾向となり、7月13日は119人まで戻していたのであった。

K値の推進者たちは、「ピークを超えた」と解釈していた頃である.... 多くの日本人が、「これで落ち着いた」と解釈し、政府は「これならGoto トラベルキャンペーンをやっても大丈夫かも」と判断したころである。旅行の準備を始めた人もいただろうし、夏の海や山の風景を頭に思い描いていた人も多かっただろう。

ところが、翌日から感染者数は再び増加に転じ、ついに7月16日には286人を記録する。17日には293人、18日は290人と、連日300人に肉薄する日が続き、多くの日本人の衝撃が走った頃である。ところが7月19日には、週末効果もあって,188人まで減少し、久しぶりの「低い数字」に安堵が広がったのがこの頃である。(もちろん、この後のGotoキャンペーンによって、この数字はその後、いとも簡単に抜かれてしまうのであるが。)

理論上は、この頃(7月19日前後)に感染してしまった人の中に、今、死亡する人たちが含まれている、という解釈になる。

7月19日周辺の状況から推測する今週の死者数

7月19日は日曜だったから、25日(土曜)までに、感染者の内訳がどのように変遷したか調べてみよう。この後で詳細な分析を行うが、今までのデータを分析すると、死亡することになる感染者のほとんどが60歳代より上の高齢者である。この年代の方だけに着目して、7/19-7/25の週にどれだけの感染者が出たか調べてみた(東京都の統計は3日ほどずれる、ということを考慮してある)。

7/19: 26人

7/20: 36

7/21: 13

7/22: 15

7/23: 35

7/24: 13

7/25: 20

という結果である。平均すると、1日22.57人の高齢者が感染したことになる。

これも後で詳細を議論するが、第一波の時のデータを利用すると、この年代の高齢者の死亡率はおよそ5%である。とすると、この週に感染した人が、今週死亡する人数の期待値は8人程度ということになる。ただし、死亡者の「入院日数」は、上のヒストグラムで見たように、幅が結構大きいので解釈には注意を要する。

最初の解釈としては、今週1週間の死者数としての「8人」という数字は、「最大値」とみなすべきである、ということになろう。8月の死者は8/2,8/6,8/9, 8/11に一人ずつで、合計4人である。8月2日は「今週」と呼ぶにはちょっと離れているが、幅が大きいことを考慮して、「今週」と(強引に)見なせば4人となる。4<8であるから、まずまずの予想といえよう。

次の解釈としては、分散をもう少し直接的に考慮する解釈である。標準偏差を計算すると2.7週となるので、今週の前後2週間くらいは幅をもたせて死者数を計算してみよう。そうすると、7月25日と7月30日にお一人ずつなくなっているので、その数(2)を足せるだろう。正規分布の対称性を考慮すると、2週間後にも2人の死者が出ると仮定してよいだろう。そうすると、7月19日の週に感染した高齢者の死者として4+2+2=8人と計算してよいだろう。明日の統計をみなければ、この解釈は非常にうまくいっている。

最後の解釈としては、7/19-25の週の中で1日ずつ死亡者数の評価をする分析である。高齢者の死亡率は5%程度なので、高齢者の感染者が20人を超えると一人の死亡者が生じる計算となる。7月19日から始まる週の中で、20人を超える日が何日あったかを数えると、それが今週の死者数に近くなる、という解釈である。上のリストを見ると、7月19日から25日の間で、高齢者の感染者が40人を超えた日はない。つまり、1日最大で一人の死者という見積もりでよい。20人を超えた日は、19,20,23,25日の4日間である。したがって、今週の死者は4人程度、という推測になる。今月の死者数は3人であるし、幅を含めた見積りだと5人である。したがって、4人という推測はそれほど悪い数字ではない。

結論

以上、3つの解釈のどれをとっても、それなりに、今週の死者数を説明できそうな範囲に収まったといえよう。つまり、今週の死者数というのは、第一波の時と比べて、桁外れに死者が少ない、ということではなさそうである。

政府は「今回は死者数や重症者数が、第一波の時に比べて非常に少ないから、状況が異なる」と繰り返し主張しているのだが、第一波のときの死亡率を使って、今週の死亡者数を概算できるのであるから、第一波も第二波もそれほど性質の異なる状況ではない、と考えるのが自然ではないだろうか?

重症者や死者が今度の波では(一見)少なく見えることから、「弱毒化した」とか「種類が違う」とか、「日本の医療体制が適応した」とか、短絡的な結論を導きたくなるのはよくわかるが、科学的な考え方というのは、もう少し丁寧に事実の細部を、深く掘り下げながら、より遠くまで見とおそうとする、慎重な態度である。したがって、わずか数週間のうちに、別の種類のウイルスへと進化してしまう(しかも人間に都合よく弱毒化の方向で)などということは、確率が低いと考えるのが自然であろう。

おそらく、「今回の波の死者数が(感染者数に比べ)少なく見える」というのは、PCR検査を拡大したための錯覚であろう。つまり、最初の波で完全に無視していた「無症状感染者」による「グラフの盛り上がり」が可視化されただけなのだ。20-30歳代でグラフの山が構成されている今回の波の感染者のグラフは、第一波と同じやり方で計測すれば見えなくなるはずだから(透明人間?)、今の状況の解釈として「まだ感染の波は来てない」と誤解するはずである。いうなれば、2月頃の状況である。日本の最初の死者は2月26日であったし、その後ひと月に渡って、ほとんど死者が出なかった。これは、今の状況とかなり似ている。

状況が最初の波と今回の波でまったく同じだとすれば、8月下旬から9月上旬にかけて、死者数は少しずつ増加し、10月に大きな死亡者数が報告されることになるはずである。

今、せっかく死者が少ないのであるから、感染者をできる限り減らす努力をし、ニュージーランドのような、限りなくウイルスフリーの社会を作ることができれば、わずかひと月ほどで、まともな経済活動ができるような世界に戻れるはずなのである。

科学的な考え方を政治家たちに教えてやるか、あるいは科学的な考え方ができる政治家に交代してもらうかのいずれかにより、この問題の解決をできるだけ速やかに実行する必要がある。