jippiniusの自然科学研究

ジッピニウスの自然科学や技術関連についての備忘録です。

東京の「感染者数の減少」をどう捉えるか?

東京の感染流行のピークは過ぎたのか?

東京都が発表する「東京の感染者数」は連日、目に見えて減少している。この数字をどう捉えるかが、目下、注目のポイントであるが、多くの人が「ちょっと信じがたい」と思っているはずである。しかしながら、この数字を無視することもできない。そういう人は、「そろそろ経済活動を再開したい」と考えるだろう。非常事態宣言解除を向けた動きが活発化してきたのは、この2つのグループの意見が拮抗してきたからに他ならない。

個人的には、米国の科学医療顧問のリーダーのFauci博士と同じ意見だ。「いまここで緩めると、制御不可能な感染流行が勃発する可能性が高い」。しかし、感染者の数が減っているのに、なぜそこまで「ビビら」なければならないのか?という疑問にも答えないと、この慎重意見は説得力に欠けてしまう。実際、Fauci博士の意見は、アメリカ大統領をはじめ、多くの経済人からは受け入れられない感じになっている...

感染者数\(\ne \)確認された感染者数

最初に議論したい点は、慎重論を唱える人の最大の根拠に基づく論点である。つまり、韓国やドイツに比べ(少ないと批判される米国や英国と比べてすら)、日本のPCR検査数は圧倒的に少ないという点である。測っていないから「感染者が少ない」だけではないか?という意見である。最近では、「母数」が少ない、とか「陽性率が高い」とか、そういう表現で、PCR検査の少なさを指摘し、慎重な意見が展開されることもある。

これは結局、当局が発表する「感染者数」は本当の意味では「感染者数」ではなく、「感染が確認できた人数」になっているだけだから、取り逃がした感染者は無数にいる可能性が高く、気をつけよう、ということであろう。このブログでも「リビングで発見してやっつけたゴキブリの数が、その家にいるゴキブリの総数だと思っていいだろうか?流し台の裏に潜むゴキブリの方が本丸じゃないのか?」という論点で議論したこともある。

また、「たしかに感染者の数は"激減"したが、毎日の死亡者の数は10-20人の間をコンスタントに記録している。死亡者が減少傾向にないことに注目し、「隠れた感染者は多いはず」という意見を述べる人もいる。しかし、以前分析したように、「10人を超えると、あとは指数関数的に感染爆発が起きて、あっという間に医療崩壊、そして死者の加速的増大が発生し、国中がパニックに陥り、ロックダウンしか手がなくなる」というのが、世界中が経験した苦い法則であるのに対し、日本は死者数は横ばいのまま「爆発はしてない」のである。これは確かに稀有な現象かもしれないから、「日本特殊論」も息を吹き返す可能性もある。

カナダのケース

上述の「世界が経験した苦い法則」に最後まで抵抗しながら、結局屈した国がある。カナダである。北半球の先進国のうち、欧米系で最後まで感染爆発に耐えたのがカナダだったのだが、3月の中旬に感染爆発を起こし、今では世界で10指に上がるほどの「ひどい状態」になってしまった。

カナダがなぜ軍門に下ったのかわかれば、東京でなにが起きているか知ることができるかもしれない。そう思っていたのだが、なかなかそれを知る機会がなかった。ところが、そのチャンスがようやくやってきた。英国の新聞The Guardianの本日の記事である!

www.theguardian.com

 

あれほどうまくやっている、と思っていたカナダだが、WHOが公表している統計データをみると、この一週間の「1日の死者」の推移は、196,169,191,157,100,178,143人と大変なことになっている(この一週間の平均値は162人/日)。これまでの死者総数は5049人であり、日本の668人を大きく上回る。3月20日の同じ統計を見ると、カナダは当時総死者9人、その日の死者0人、一方の日本は総死者33人、その日の死者4人となっている。

また、最新のWHOの統計をみると、昨日1日で最も死者が出た国がアメリカ合衆国で982人、次に英国で627人、3番目がブラジルで396人、4番目がフランスで348人、5番目がエクアドルの182人、6番目にスペイン176人、7番目がイタリア172人、そして8番目がカナダの143人となる。あれだけ酷かったイタリア、スペインと肩を並べるほどの酷さになってしまった....信じられない。何がカナダで起きたのだろう?

感染の中心はケベック州

The Guardian紙によると、カナダの死者のおよそ64%がケベック州で発生しているという。

ここでカナダの地理を見ておこう。首都はオタワだが、最大の都市はトロントである。両者ともにオンタリオ州にある。オンタリオ州五大湖を挟んでアメリカ合衆国と接している地域である。ナイアガラフォールがある地域であり、ニューヨーク州と接している。

我輩も、以前、デトロイトから橋を渡ってオンタリオ州に渡ったことがある。New Londonという街があったこと、エリー湖の湖畔がすばらしかったこと(キャンプしていたイギリス人と「お前もロンドンから来たのか!」と話が弾んだこと)、国境のお土産屋で鮭のTシャツ(スモークサーモンとメープルシロップ!)とカナダの国旗のバッジを買ったこと、など鮮明に覚えている。国境を再度渡って、バッファローに入り、えげつない形のホテル群に辟易しながらも、ナイアガラの大瀑布に恐れ入ったことも、当然覚えている。(この時は、ニューヨーク市には行かず、エリー湖の南側のInterstatesを走ってシカゴまで戻った。)

ケベック州は、オンタリオ州の北に接するカナダ第二の人口集中地帯である。太平洋側にあるバンクーバーの方が日本人には馴染みがあるが、やはりカナダはヨーロッパの方を向いて発展してきたと見える。そして、ケベックは(英語を用いるオンタリオとは異なり)フランス語が中心の文化である。最大の都市はモントリオールで、その人口は東京都の1/3程度の400万人だというが、ケベックの人口の半分がそこに集中しているという。ケベックの新聞社によれば、この「人口集中」が感染爆発の引き金になった、という。そこには、感染爆発にいたる「連鎖反応」があったという。

感染爆発は老人ホームから始まった

モントリオールの場合、感染爆発はCHSLDと呼ばれる、公的な老人ホームから始まったという。モントリオールガゼット紙によると、老人ホームで働くケアワーカーはただですら人手不足だったという。満杯の老人ホームにわずかな職員ーーーそんな環境だっという。モントリオールにある「Herron」という名の公的老人ホームで老人の大量死が隠蔽された事件が起きた。

モントリオールガゼット紙によると、この老人ホームでは、コロナウイルスとは関係なく、毎月平均して三人の老人が(高齢のため)死んでいたという。3月3日に92歳の女性が亡くなったという記録が見つかり、これは新型コロナウイルスとは関係がないことがわかっている。また、3月4日-3月27日まで死者の記録はないという。ちなみに、ケベック州における最初の新型コロナウイルスが原因の死者は3月18日のことで、それは別の老人ホームで発生している。ところが、この死者の発生がカナダの老人ホームで働くケアワーカーの心に黒い蝕みを発生させたようだ。「恐怖」という蝕みである。

「Herron」においても「恐怖」が知らないうちに広がり始めていたようだが、それがついに弾ける日がやってきた。3月27日、「Herron」在住の老人男性は体調を崩し、病院に搬送され、そこで死亡した。診断は新型コロナウイルスによる肺炎だった。親族が、老人ホームにこのことを連絡したときパニックが発生したという。複数の看護師が老人ホームから逃げ出したのである(結局、この看護師たちは全員感染していたことが判明する)。ただですら、人手不足だった満杯の老人ホームはあっという間に破綻していく。

翌日、二人の老人が新たに死亡した。新型コロナウイルスが原因だった。これにより、残りのスタッフも仕事を放棄することを決断した。老人ホームに老人だけが取り残されたのだ。4月に入り、老人ホームの死者はうなぎ上りに増えていったようだ。結果として、放棄されたことが発見されるまでのわずか3週間ほどで31人の老人が死亡したのである(毎月三人程度しか死亡しない老人ホームで)。老人たちには水も食料もない状態で発見されたという。オムツを三週間し続けていた人も多く見つかるという悲惨な状態であった。この「31人の死者の隠蔽」というのは、意図的なものというよりも、放棄によるものであった(東京都で疑われた「感染者隠し」とは違う性質のものである)。

これは数多く存在するケベック州の老人ホームの一例であり、他の場所でも老人の感染者の拡大が起き、それがケアワーカーの心に恐怖を生み、その結果として複数の老人ホームで感染爆発が発生したのであった。ケベック州新型コロナウイルスによる死者の82%が老人ホームの住人であり、またモントリオールの2003人の死者のうち、その97%が60歳以上の高齢者である(74%が80歳以上の老人)。

感染爆発が連鎖するメカニズム

老人ホームで感染が流行しても、それはいわゆる「クラスター」である。ところが、カナダの老人ホームの場合、そのクラスター同士が結びつくメカニズムがあったのだ。爆発が連鎖する仕組み、といってもいいだろう。それが「移民」だった。

移民といっても、貧しさのために国を捨て、豊かさを求めて、着の身着のままで逃げ込んできた外国人亡命者/難民のことである。「亡命者」というと政治的迫害のため、という感じがするが、近年では大災害による国家の破綻が引き金となり、貧しさに耐えきれなくなって国外に逃げる人々(難民)も含まれる。これは地球温暖化の影響と言っていいだろう。

貧しい難民たちは、大都市の吹き溜まりに集まる。人口密集地帯、いわゆるスラムである。そこでチャンスを待つのである。新型コロナウイルスがなくても、そこでの生活はきつかっただろうが、このウイルスは人間の弱いところにつけ込んでくる。

英紙The Guardianが取り上げたのは、ハイチ出身の男性である。ハリケーンの度重なる襲来および人種間の争いによって、ハイチは荒廃してしまった。カナダでもっとも人気のない職業に彼らは就いている。それしか仕事が見つからないからだ。そしてそれが、老人ホームのケアワーカーの職であった。

いつもは洋服関係の工場の工員として働いているが、収入を少しでも増やそうと、この男性は週末、老人ホームでアルバイトをしていたのである。シフトがあれば夜も老人の世話をして働く。そして、仕事が終わると、大家族が待つ、狭くて汚いアパートに戻っていく。

3月の初めから4月にかけて、老人ホームで大量の仕事の募集があった。その原因は、正規のケアワーカーの「逃亡」である。この穴を埋めようとして、老人ホームのケアワーカーのアルバイトが雇われたのだ。そこには難民の姿も多く見られた。彼らは「危険職」のボーナスがなくても働いてくれたからだ。モントリオールにおける感染者の20%が、福祉施設ではたらく人々であり、その多くが貧しい難民だという。その結果、モントリーオルの貧民街の1/4近くが新型コロナウイルスに感染している、という報告がある。

こうして、クラスターが連鎖していったのである!

この例だけに限らず、いろいろなケースがいろいろな事情で、クラスターの連鎖を発生させたと考えられる。共通するのは、老人ホームのクラスターが、貧しいアルバイトのケアワーカーによって繋がり、連鎖しながら爆発していくメカニズムである。

爆発した感染は、人口密集地帯の弱いところを突いていく。混雑した駅、店、ひとり親家族の仕事と取り残された子供達、教育機関などなど。こうして、カナダは新型コロナウイルスに負けたのである。

東京の場合

東京でも老人ホームがクラスター感染を発生させたが、それが連鎖していない。ケアワーカーが日本人であり、正規であり、誇りを持って働いているから、老人たちを見捨てないのだ。移民によるスラムや外国人労働者による、汚い仕事の押し付けも、欧米に比べれば、まだそれほどひどくない。労働の搾取...19世紀にエンゲルスマルクスが論じた古典的な資本主義の問題点をCOVID-19は確実に突いてくる。日本でも、この傾向が強まりつつあることは事実である。しかし、まだ欧米ほどひどくないのかもしれない。それが故に、感染爆発の速度が欧米ほどは速くないのかもしれない。

しかし、労働の搾取は東京にもあるし、貧しい人が見捨てられるような状況も皆無ではない。劣悪な環境にある老人ホームで虐待が行われた、という報道も近年よく聞く。ある場所にはそれは存在し、深刻な問題を提起している。ワーキングプアの問題は最近話題になった。こういう地域にCOVID-19が忍び込んだ時、東京でも感染爆発は起き、社会が崩壊する可能性がある。それはどこなのか?我輩にはまだわからない。それはいつなのか?一向にわからない。

東京の弱点を探し出し、それをいち早く取り除くこと。これが、東京で感染爆発を事前に防止する最大の武器になりそうである。

(新宿の大久保の外国人とかあの辺は今、どんな状況なのだろうか?川崎の老人ホームで虐待死とかあったが、その辺りはどうなのだろうか?)