jippiniusの自然科学研究

ジッピニウスの自然科学や技術関連についての備忘録です。

3月の読書

今月はコロナウイルス 関連の論文やWeb記事をたくさん読むことになってしまったが、その合間に読んでいるのが大昔に購入した洋書1冊だ。


洋書

  • Demonic Males (R.Wrangham and D. Peterson)

その昔、Time magazineを購読していた時に、書評の欄でこの本が紹介された。当時はインターネットが一般に公開されておらず、Amazon.comも存在していなかった。大学の研究者はemailとWWWが使用できたので(ブラウザーNCSA mosaicだった!)それらを利用してシカゴ大学の生協とやりとりをして洋書を輸入していた。注文してから半年ほどで届くと嬉しくてたまらなかった。世界が手に届くようになったと感動した記憶がある。A.C.クラークがまだ新作を書いていた頃で、Ramaシリーズの新刊が出るたびに注文し、輸入購読しては喜んでいた。

この経験をもとに、大学生向けに洋書販売を企んだが、1冊売り上げたところで、その翌月だったか翌年だったかにamazon.comが設立され、わが野望は水泡に帰したのである...どこぞのコマーシャルじゃないが、「競争はやるなら徹底的に」というのが、amazon.comとの闘いに敗れて学んだことである。

余談はこの辺にしておいて、"Demonic Male"の話に戻ろう。シカゴ大学から購入したこの本は、人間の男性がかくも凶暴的なのはなぜなのか?というテーマを、動物学の立場から考察した名著である。章を読み進めるうちにクライマックスが近づいてくるのがわかる。すべての議論が噛み合わさって最後の結論をまとめる第12章を読み終えると、感極まって、しばらく窓の外の遠景に視線を固定し、呆然としてしまうかもしれない。それほど衝撃的な本であった。これほどの本には滅多にお目にかかれない。

作者は類人猿の研究者である。20世紀の終わりに、アフリカ中央部のコンゴ(この本が出版されたときは「ザイール」と言った)の森で発見があった。新しいタイプの類人猿の発見である。しかしそれは「発見」というよりは、長年見逃していたものにようやく気づいた、というタイプの発見であった。それまで「ピグミーチンパンジー」と呼ばれチンパンジーだと思われていた類人猿が、実は「ボノボ」という新種であることがわかったのだ。

この発見は世界中に広がり、当時多くのメディアが取り上げた。が、ボノボの特徴が知られるにつれ、その興奮は高まった。というのは、ボノボはチンバンジーや人間と違って、「殺人」を犯さないからだった!

狼もライオンも、縄張り争いやリーダー争いを繰り広げ、闘争を行う。しかし、決闘の結末は、負けた方の逃亡である。まさに負け犬が尻尾を丸めて後退し、負けを認めてひれ伏せば、そこで争いは終わるのである。しかし、チンパンジーと人類だけは、敗北者を処刑するまで闘争は続くのである。さらに、この2種は1対1の争いよりも、多対多(これは戦争)あるいは多対1(これはイジメ)という形態をとって相手を抹殺するという特徴がある。争いに参加するのは「オス」である。この「オスの残虐性」をこの本では「悪魔の男」と題名に取り上げているのである。

ボノボは、このような「悪魔性」を持っていない(まったくないわけではなく、ある進化論的な進歩によって、悪魔性を封印することに成功したのだ)。この理由は、ボノボの社会の中心にいるのは、「メスの集団」だからである。

面白いのは、途中で登場する「悪魔的な女」という進化方向を選んだ動物についての分析も登場する点である。それはハイエナである。身の毛もよだつハイエナの恐ろしい生態は、読んでいて恐怖である。例えば、ハイエナの多くは、同時に二人の子供を産む。この子供たちは最初に物を噛むことを習う。次に噛んだものを首を振って千切る訓練を行う。そして最後にやるのが、兄弟同士の殺し合いである。生き残ったものが、母親に面倒を見てもらうのである。母親が自分の子供たちが殺し合う様を、ニヤつきながら見ているのだと想像すると、まさにそれは「悪魔」である。

このように、オス/メスという特徴だけに偏らず、なぜ「ボノボのメス」だけが「平和と調和」というものを武器に選んで進化論の頂点に立つことができたかを、さまざまな動物の凶暴性、とくに類人猿の残虐性を中心にして、議論していくのがこの本である。

そして最後にボノボのメスたちの分析を通して、凶暴で残虐な悪魔的人類(「男」中心の社会的動物としての)にも光ある未来がありうるのか、それとも相互の殺戮の果てに地獄に落ちるのか結論を出していくのである!

人類がかくも凶暴なのは、「競争」に勝つために、その知性を動員し、策略、謀略を徹底的に駆使して相手を殺して駆逐するためである。

知性こそ悪魔である、という意見に反論する人は多いだろう。作者は知性(intelligence)と「知恵(wisdom)」を分けて考え、ボノボが獲得したのは「知恵」と「知性」の双方であり、「知恵」によって「知性」を制御する術を会得したため、類人猿において、進化論的に最高位に立った動物であるとしている。

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Adaptation from "Demonic male" by NPR

訳本も出たようだが、現在は絶版となっているようである。洋書ならまだ”amazon.com"で買うことができる...