jippiniusの自然科学研究

ジッピニウスの自然科学や技術関連についての備忘録です。

新型コロナウイルス の感染メカニズム:鍵はACE2という酵素か?

 

f:id:jippinius:20200321134028j:plain

Coronavirus (c) 2020 Kateryna Kon Science Photo Library

新型コロナウイルス の重症化に男女差があるらしいこと

前に書いたブログ記事でも取り上げたが、新型コロナウイルス の重症化の度合いに男女差があるらしい、という仮説が世界に飛び回っていて、それについて調べているうちに、有名な英国の医学雑誌ランセットの論文にたどり着いた。それによると、ACE2と呼ばれる肺胞にある酵素が感染の鍵を握っているのだという。

現在、この論文は無料で読める。ありがたいことである。

論文のタイトル、著者は以下の通り。

"Sex difference and smoking predisposition in patients with COVID-19"

「COVID-19の感染患者にみられた性別と喫煙習慣による差異」

by Dr. H. Cai (Department of Medicine, University of California, Los Angeles, USA)

The Lancet (Respiratory Medicine) doi: 10.1016/S2213-2600(20)30117-X, published Mar 11 (2020).

論文を読む前にWikipediaで予習

論文を読む前にWikipediaでACE2について予習してみた(日本語訳はない)。

ACE2 = Angiotensin coverting enzyme 2

ACE2は肺胞の上皮細胞にいるタンパク質で、酵素として働く(どこでどのような働きをするかは難しすぎて追えません...)。

ACE2は「ある種の」コロナウイルス (これはSARS、およびCOVID-19を引き起こすコロナウイルス を含む)が人体に侵入するためのエントリーポイントとして働く(!)。

したがって、細胞中のACE2の濃度を下げることでCOVID-19の感染と闘うことができるのではないかと考える研究者がいる。

一方で、ACE2はウイルスによって損傷した肺の細胞を保護する役目もある。

コロナウイルス のスパイク部分(トゲトゲ部分)のタンパク質がACE2と反応すると、ACE2の濃度が下がることがわかっている(これは良いことなのか悪いことなのか?)。

ACE2というのは肺胞に存在していて、最初にコロナウイルスに「乗っ取られてしまう」人体部分で、これがエントリーポイントになってしまった後に、細胞への侵入が始まるのだ!

論文の内容

これまでの研究で、COVID-19に罹患した患者において、その感染のしやすさと重症化の度合いが、性別によって異なる可能性が指摘されている。 また、喫煙者のACE2のレベルが上昇していることも報告されていて、喫煙習慣の有無がCOVID-19への罹患傾向や重症化に影響を与えている可能性がある。

ある研究によると、アジア人男性のACE2が高めになっていることから、それがアジア人男性が他の人種や女性に比べてCOVID-19に対して「弱い」原因になっているのではないかと推論している(おそらく、この論文が執筆されていた時はイタリアの状況はまだそれほど深刻ではなかったので、「アジア人」はCOVID-19に罹患しやすいと推論したのであろうが、この論文が出版された直後にイタリアで大流行が発生したので、この推論は正しくないことがいまでは明らかである。ただ、女性の方が男性よりも「強い」傾向があることは、イタリアのケースでも報告されている)。

中国で行われた別の研究によると、罹患者の内訳は男女間で差がないが、重症者の内訳で男性の方が女性よりも67%多いことが報告されている。

したがって、これまでの研究成果をまとめると、男性の方がCOVID-19に対し「脆弱」ではないかという推測は、どうやら正しい可能性が高まってきたといえる。

ただ、病気への男女差は、中国における喫煙率の男女差と関連しているのではないかという指摘もある。(中国では男性の喫煙者の数はおよそ2億8千万人だが、女性は1200万人である。)ある研究によれば, ACE2のレベルはアジア人と白人でほとんど差異がなく、男女差もほとんどないという。60歳を境界とする若年層と高齢者層の間にも差は見られない。差が見られるのは、アジア人の喫煙者とアジア人の非喫煙者との間である。興味深いことに、白人の場合は、喫煙者と非喫煙者の間にACE2のレベルの差はなかった。いずれにせよ、現状ではどの研究者も喫煙習慣とCOVID-19との間に関連性があることを積極的に肯定していない

これまでの研究を俯瞰すると、アジア人男性が特に弱いとか、女性の方が強いとか、そういう結論を科学的に断定するだけの証拠に現在は欠けている。ACE2のレベルが、男女差、人種、年齢によって違ってくるかどうかについては、これからも注意して研究を深めていく必要がある。

結論

ACE2がCOVID-19の人体へのエントランスポイントであるならば、これを激減する薬を開発すれば全てが解決される!と思って論文を読んでいたのだが、まだまだ研究データが集まっていないようで、結論が出ないらしい。ちょっとがっかりだ。

あくまで統計的に男女差が見られるだけであって、科学的な根拠は見つかっていないようだ。それはそうだと思う。中国もイタリアも、人の命を救うのが優先だから、いちいち研究のための検体採取や対照実験をやっている場合じゃないのだろう。

でも、もしかして、日本の感染研は、PCR検査を研究用に確保しつつ、こういう研究をやっているのかもしれない。うまくいって薬の開発につながればよいのだが、論文が出て彼らの業績になるだけに終わり、多くの人が死んでしまうのでは、たまったものではない。