jippiniusの自然科学研究

ジッピニウスの自然科学や技術関連についての備忘録です。

PCR検査の上手な使い方:イタリアの場合

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Coronavirus (c) 2020 Kateryna Kon Science Photo Library

感染初期における徹底的なPCR検査の有効性

PCR検査を使って感染連鎖を防ぐ試みを、日本で最初に行ったのは(もちろん)和歌山県である。その責任者は野尻孝子氏である。海外では、台湾の手法が評価されていて、その陣頭指揮にあたったのが唐凰氏(Audrey Tang)である。どちらも素晴らしい計画と、すばらしい実行力により人々を救ったと思う。(もちろん、covid-19との闘いは続いているが.)

昨日の英紙Guardianにイタリアの初期の取り組みが紹介されていた。これは今朝のテレビ朝日の情報番組で玉川徹氏も紹介していた事例である。

www.theguardian.com

 

 感染の初期では、徹底的なPCR検査が役に立つという(数少ない)科学的な実証である。日本の大都市圏はすでに拡大期に入ってしまったが、地方都市ならばまだこの手法が適用できると思われる。台湾、和歌山、そしてイタリアの町で成功した事例のうち、イタリアのケースをここでは研究してみよう。

記事のタイトルは「多くの科学者が認めた、徹底的なPCR検査によって新型コロナウイルスの感染拡大を食い止めることに成功したイタリアの町のケース」である。日付は3月18日である。

徹底的なPCR検査によって新型コロナウイルス の蔓延を食い止めたイタリアの町の取り組み

イタリアで最初に死者が発生したのが、イタリア北部の町ヴォー(Vo)である。ヴェネツィアから50km、イタリアの文芸都市パドヴァガリレオが望遠鏡をつかって世界初めての天体観測を行った街である)から20kmのところにあり、人口は3500人ほどの小さな町である。この町がとった感染防止策を分析すると、新型コロナウイルス がどうしてここまで蔓延したのかその秘密を握っているのが「無症状感染者」であることが見えてきた。科学者はこの町の取り組みはこれからの対策のお手本(モデルケース)となるだろうと言っている。

感染の広がりを科学的に分析したのはパドヴァ大学を中心とするグループで、ベネト州と赤十字との共同研究において行われた。症状のあるなしに関わらず、町の住民すべてに対しPCR検査を行ったのである。この研究調査の目的は、ウイルスの博物学的な探求、ウイルス伝搬のメカニズム、そして危険レベルの分類である(たとえばエボラはレベル4、つまり最高に恐ろしいウィルス)。

PCR検査は一人につき、2回実施された。全住民のデータを分析した結果、この感染症では無症状感染者が決定的な役割を担っていることが判明した。

この調査が始まったのは3月6日で、当時90人が感染していた(感染率2.7%, ちなみに湖北省は0.1%)。しかし、3月18日現在、この町に感染者は一人もいない

この町がなぜ感染の広がりを止めることができたのか、その最大の理由は、「水面下に潜む感染者」(風の谷の森に拡がってしまった腐海の菌糸のようなもの)をすべて探しだし、完全に隔離したからである。このやり方がが他の地域や国々のやり方と決定的に異なっている点である。

ヴォーの町の調査でプロジェクトメンバーだったクリスターニ氏(英国インペリアルカレッジロンドンの感染症学専門家)は、FTの記者に「この研究では、最初に6人の無症状感染者を見つけ出した。このわずかな「健常者の仮面を被った感染者」を隔離したことで、他の健康な住民への感染を防ぐことができたのである。

この研究に基づいて、フィレンツェ大学のロマナーニ氏(臨床免疫学教授)は政府に次のような書簡を送った:町の全人口に占める感染者の割合は、無症状感染者も含めると非常に高くなっている。したがって、無症状感染者の隔離を行うことが非常に重要で、それができれば感染の拡大を抑え込み、深刻な病気の蔓延を防ぐことができるだろう。」

 (おそらくこの提言を受けて)イタリア政府や地方行政府は「大規模なPCR検査」を実行することになった。「検査をしたからといってなんの害があるのか」とベネト州の首長ザイア氏は言う。「検査のおかげでヴォーの町はもっとも安全な町になった。この事実こそが検査体制の強化が有益な証だ」。

徹底的な全数検査の唯一の欠点は費用である(綿棒一本に1ユーロ)のみならず、組織的な問題点もあるという指摘がある。

WHO代表のゲラ氏は数日前に、WHO総局長テドロス氏が「感染が疑わしい人や、濃厚接触者の特定、確定のための診断をできる限り増やすように提言する。しかし、今の段階で、全数スクリーニングをするべきだとは言ってない。」と語っていると発表した。

ミラノ大学感染症学教授のガリ氏は「残念ながら、伝染は日々拡大していく。今日は陰性とされた人も、明日は感染源に触れて陽性になってしまうこともありうる」とガーディアン紙に語った。

BBCの報道

イタリアで感染が広がっている地域には、高齢のお年寄りが多く住み、その多くが18歳から34歳の家族(子供や孫たち)と同居している。

 

無症状感染者の最初の報告

確か、ドイツにおける最初の感染者が症状はなく元気であるのに咽頭から大量のコロナウイルスを出していることがPCR検査の結果判明したのが、最初の「無症状感染者」だったような記憶がある。彼は、ドイツ国内で、武漢からやってきた中国人と商談を行ったのだが、その後に武漢での感染爆発が明らかとなったため、心配になってドイツ当局に相談したのだった。ドイツはすぐにこの男性のPCR検査を行うことを決めたのである。数時間中国人と商談を行っただけであり、本人には自覚症状がなかったにもかかわらず、念のために検査を要望した注意深さ、そしてその心配を受け止めてきちんと検査を実行した用心深さ。こういう慎重な姿勢が科学的な姿勢なのである。うがった考えや、先入観をもたず、事実に基づいて、結論を論理的に導いていく。これこそが実証主義であり、科学なのである!

 無症状感染者の発見により、covid-19との闘い方のヒントがイタリアに伝わったのである。

ところで、この「無症状感染者」のニュースを最初に聞いたとき、「これって、エイリアンに寄生された人と同じでは?」と思った次第である。エイリアンに寄生された「元気な人」はいずれやられてしまうのだが、新型コロナウイルス の無症状感染者も結構な割合で結局は発症してしまうのだろうか?どうやらそうらしいことが、クルーズ船を「陰性」で下船したお客さんが何週間も後になって発症することから、少しずつわかってきたような気がする。

残念ながら、日本政府、厚労省は、「無症状感染者」というキーワードの理解を把握するのに失敗したと思われる。

東アジアの成功ケース

繰り返しになるが、東アジアで科学的な手法、つまり徹底的なPCR検査を上手に利用して、感染の爆発的流行を食い止めたのが、台湾と和歌山県である。

別の方法、つまり徹底的な人の移動の禁止や街の閉鎖、戒厳令などによって、問題を解決しつつあるのが中国である。しかし、中国のやり方については、ふつうなかなか採用するのが困難な方法であることは周知のとおりである。