jippiniusの自然科学研究

ジッピニウスの自然科学や技術関連についての備忘録です。

PCR検査の稼働率と「感染者隠し」: その2

 「日本のPCR検査数は少ない」と米国の研究者が指摘

本日の朝日新聞の記事に、アメリカのジョンホプキンス大学の研究員による指摘が紹介されていた。それによると、日本のPCR検査は、韓国、アメリカ、それにヨーロッパに比較してとても少ない、とのことである。

www.asahi.com

 

 日本におけるこれまでのPCR検査数は1万程度だが、韓国は20万ほどだという。「圧倒的」な遅れである。日本よりも感染流行が後から始まった欧州、米国に比較しても、日本のPCR検査の実施数は少ないのは、「(日本は)落ち目の国」なので資金も技術も人材も乏しいからなのか、それとも誰かの画策によって「意図的に制限されているのか」。この2つのうちのどちらかなのだろうか、あるいはその両方ということもある。

新型コロナウイルス に感染して命を落としたり、重症化して苦しむ日本の人々が気の毒である。いつでも苦しみのしわ寄せがくるのは一般の国民なのか?そうであってはならないはずだ。

東京のPCR検査数の特徴

昨日に引き続き、今日は東京のPCR検査数について分析してみよう。データの入手先は、東京都自慢の「新型コロナウイルス 感染症対策サイト」だ。

 

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東京におけるPCR検査数の推移(クルーズ船の分は除く)

この棒グラフを見ていると、なにかしらパターンがあるような気になる。まさかとは思ったが、横軸のラベルを勘定してみると...やっぱりそうだ。このグラフは7日の周期で振動しているように見える

フーリエ変換をするのは大変なので、三角関数の形(たぶん\( \propto \cos^2(\omega t) \)のような形になるはず)を仮定し、最小二乗法でパラメータを決めてみた。すると6.84日を周期とした三角関数でよく近似できることがわかった。

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Number of PCR tests in Tokyo and the trigonometric fitting

データ数が極端に減っている場所(つまり極小点)の曜日を調べると、案の定、土曜と日曜であった。つまり、東京都のPCR検査は、土日にお休みをとる「お役人」が担当していることが判明したのである(ただ、土日でも20検体程度は、申し訳なさ程度にやっているのがおもしろい。誰が休日出勤しているのだろうか?)。新型コロナウイルス に感染して苦しんでいる人にとっては、土曜も日曜もない。土曜に発症したら、月曜まで待たねばならないのだろうか?

しかも、検査数が三角関数の曲線を描くということは、月曜や火曜などの週初めは「お休みボケ」かどうかは知らないが、検査をする気があまり高くないようで、検査実績が少ないのである。検査数がピークとなるのは木曜あたりであり、金曜になると週末の計画でそわそわするのかどうかは知らないが、再びやる気が失せていくのである....三角関数の平均値\begin{equation}\langle N\rangle = \frac{1}{T}\int_0^T \cos(\omega t)dt, \quad T=\frac{2\pi}{\omega}\end{equation}は、ご存知のように0である。もちろん、「検査数」というのは負の値を取らないので、縦軸方向に持ち上げて(つまり\(\cos^2(\omega t)\)に近い形に修正して)、

\begin{equation}N(t)\equiv N_0\cos(\omega t+\delta)+ N_1\end{equation}

という関数形にしてから平均値を取れば

\begin{equation}\langle N(t)\rangle = N_1\end{equation}

である。最小二乗法の計算結果では\(N_1=69.87\)となったから、東京都のこの1ヶ月ほどのPCR検査実施数の平均値は70件/日 となる。統計データにもとづく過去1.5ヶ月の単純平均を計算するとおよそ50件/日となるので、70件/日というのは妥当な数だと思われる。

もし今が感染流行の初期だと思うのであれば、和歌山や台湾がやったように、徹底的にPCR検査を行って感染者を完全に隔離する必要があったのではなかったか?和歌山県の場合は、これまでに14人の感染者が見つかっている。これだけの人数の感染者を見つけ出すために、いったい何人をPCR検査したのだろうか?3月13日までの統計データをみると1029人である。つまり感染者を見つけ出す確率(hit rate)はわずか1.36%に過ぎない。

東京のPCR検査の体制に当てはめてみると、1日平均70検体でいったい何人の陽性者を見つけ出せるか(和歌山のデータを用いて)推測すると,\(70\times 1.36 / 100 = 0.952\)、つまり大体、「1日あたり一人の陽性」を見つけることができる、ということになる。東京がPCR検査を始めたのが1月25日だから、今日までに約50日が経過した。つまり、東京の感染者は(和歌山のデータから学んだ)PCR検査の性質から推し量るに、理論上50人程度になっていることが期待できる。そして、実際の人数は昨日までに87人だから,だいたい予定通りに来ているということがわかる。

これはどういうことかというと、もし東京都の行政にすごく頭のいい人がいて、和歌山のPCR検査の実態から、徹底的にPCR検査をやった時のHit rateが1-2%程度だと考えれば、一週間に70x7、つまりだいたい500検体ほどの調査に(意図的に)留めおけば、ひと月あたりの感染者数を「20人程度」とすることができる。オリンピックの開催の是非が決まる5月までの3ヶ月の間の感染者合計を50-60人程度(100人よりずっと小さな数)に「仕上げる」ことができれば、「感染を封じ込めることに成功した」と高らかに宣言できる、と分析/判断したのではないか?という疑念である。

「8月の頭までの感染者数を計算する上でも、月間20人の感染者なら1月から8月までの8ヶ月で160人程度となる。これでもいいが、でもちょっと大きめの数字に見えてしまうから、最初の1,2ヶ月はできるだけPCR検査をさせないようにして「感染者を0」に抑え込み、正味6ヶ月として20x6=120程度、うーむ、もう一超え頑張ってなんとか99人未満に抑えられるよう、頑張ってPCR検査を阻んで行こう、やー!」といった話し合いが、都庁の会議室の一つで行われていた可能性があるのではないだろうか?という想像である。

もしこのような話し合いがあったならば、一週間でさばくべきPCR検査の総数は450-500検体と決まる。これを月曜から金曜までの間に行うよう計画を立てると1日に70検体程度となるが、週の始めと週の終わりにはあまり働きたくないので、若干抑えめに検査を行い、その分を水曜木曜で取り戻そう、という考えになる。つまり、あらかじめPCR検査の数を予定して配分しておかないと、あんなに綺麗な三角関数で表現できるような曲線にはならないと思うのだ。面白いことに、3月6日はいつもより多めに「PCR検査をやりすぎ」118検体も調べてしまったようで、3月8日の日曜日に、休日出勤をやめて、測定数を0に調整しているように見える。この勘ぐりが正しければ、土日に休日出勤して20検体を測定しているのは、課長かグループリーダーかそんな感じの人なんだろう。「週末調整」を管理職がやっている光景が頭に浮かんで、気の毒に感じるのである。

実際には、感染患者が多かったり、少なかったり、クラスターが見つかって激烈に忙しくなることもあろうだろうし、まったく患者がいないときもあるだろう。PCR検査に余裕があるなら、その実績数はランダムになるはずである(東京都の検査数を見れば、水曜木曜の「最大検査ピークデー」のときは1日に100件を超える検査をすることができることがわかる。患者の数が多くて毎日毎日頭打ちになるほど検査をしているわけではないから、ランダム分布にならないのはやっぱりおかしい)。それが水曜と木曜をピークにして、綺麗な周期関数になっているから疑わしいのである。

東京都は昨日クラスターという「ババ」を抜いたか?

以上のような「皮算用」はクラスターが発生していない感染流行初期の話である。PCR検査のヒットレートが1.36%というのも和歌山の事例から導出しているから「超初期」のデータである。

1日100回の検査にとどめ、陽性出現が日に1,2件で抑えられているのは最初だけであって、大阪や愛知のようにいずれはクラスターというババを引く日はやってくる。

昨日、東京都は新たな感染者を10人発表した。土曜の発表ということは、金曜の測定結果である。まだPCR検査数は公表されていないが、どうせ80検体程度であろう。それにも関わらず、10人もヒットしたということで、担当者は相当泡を食っているはずだ。東京都は、海外からの帰国者が3月の末になるにつれて増えているから、と説明しているようだが、クラスターのババを引き当てた可能性もある。そうだとすると、これからは1日に70回のPCR検査を予定通りにやっていくだけで、「クラスター感染爆発」を探り当ててしまうことになってしまうだろう。

「これはまずい」と、先ほどの「頭の良いお役人」が判断するなら、来週のPCR検査は相当制限されることになるだろう。当然、今週末の「休日出勤」はないはずである。東京都が「感染者を隠しているかどうか」はこの辺りを観察すると判定できるかもしれない。

大阪と名古屋のケースから学んだように、クラスターが発生しているのにPCR検査を人為的に空転させてしまうと、その空転時間に応じて、クラスターの規模が大きくなる、という性質がある。もし東京都がクラスターを引き当てたならば、来週は大変なことになりそうである。